書籍詳細:父系血統主義の系譜

父系血統主義の系譜 植民地朝鮮における司法政策の臨界

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  • 紙の書籍
予価:税込 6,600円(本体価格 6,000円)
発刊年月
2025.12
ISBN
978-4-535-58790-8
判型
A5判
ページ数
504ページ
Cコード
C3032
ジャンル

内容紹介

現代韓国の血統主義が、実は植民地期に日本の法整備によりもたらされた、日本由来の「創られた概念」であることを明らかにする。

目次


はじめに——現代韓国の父系血統をめぐる起源の再考    


序 章 先行研究において抜け落ちた視角と本書の視角枠組み  

1 植民地政策批判の再考

  1-1 同化政策批判への批判  

2 近代化という名の日本化を克服する議論
  ——植民地近代性論、又は植民地的近代

  2-1 植民地近代性論の視角  
  2-2 植民地近代性論の問題点  
  2-3 植民地近代性論の指標となる日本型近代と
      朝鮮の儒教との交差  

3 本書の進め方

  3-1 視角枠組み  
  3-2 史料の妥当性  
  3-3 本書の構成  

___________________________________

第1部——韓国併合以前の日本と朝鮮の世代承継と血統
___________________________________  

第1章 植民地朝鮮に持ち込まれた血統とは何か 

1 明治期日本の世代承継と血統

  1-1 親族枠組みと生物学的つながり  
  1-2 日本と西欧の血統に対する思考枠組みの相違  
  1-3 旧民法起草過程における西欧型血統概念の
      日本語「血統」への翻訳  

2 明治期日本と東アジアの血統観の相違点と日本型血統観の普遍化

  2-1 生物学的つながりを重視する日本と精神的つながりを
      重視する儒教  
  2-2 日本の父子の「儒教化」  
  2-3 「孝」・「親」の日本化  

3 小括


第2章 朝鮮時代の私領域における規範上の婚姻と親子  

1 朝鮮時代の国制書の編纂方式——一貫した規範の維持  

2 国制書をとおして見る父子の生物学的つながりに対する
  認識の変遷  

  2-1 奉祀条と立後条の矛盾と解釈  
  2-2 条文の解釈をめぐる議論と定式化  

3 庶孽の後嗣をめぐる観念の生成  

  3-1 嫡妾の分  
  3-2 嫡庶の別と世代承継の論理としての「気」  

4 小括  


第3章 公領域での朝鮮時代の庶孽差別  

1 科挙受験に及ぼす実母の婚姻上の立場  

  1-1 科挙をめぐる規定  
  1-2 再嫁失行婦女の子孫と科挙受験  
  1-3 国家と科挙選抜における庶孽  

2 庶孽禁錮之法の緩和  

3 刑法大全の施行までの経緯と制度上の庶孽差別の「消滅」  

  3-1 刑法大全の制定と庶子をめぐる条文  
  3-2 軍国機務処による開国五〇三年の議案と
     『現行 大韓法規類纂』  

4 小括    


第4章 「三宗の血脈」と英祖の憂鬱  

1 王位継承の要件  

  1-1 東アジアの王位継承と朝鮮王朝の王位継承  
  1-2 朝鮮王朝の王位継承の様々な形  

2 世子の選定と王位継承の風儀  

  2-1 嫡長子による王位継承  
  2-2 廃世子後に他の適格者が王位継承したケース  
  2-3 王の崩御直前あるいは崩御後の王妃による王推戴  
  2-4 反正などによる王廃位と次期王  

3 景宗―英祖の王位継承「三宗の血脈」の誕生  

  3-1 「三宗の血脈」の誕生前夜  
  3-2 英祖の世弟冊立と「三宗の血脈」の誕生  
  3-3 「三宗の血脈」と英祖の憂鬱  

4 小括  

___________________________________

第2部——植民地朝鮮における旧慣温存政策のあとさき  
___________________________________

第5章 旧慣温存政策の朝鮮民事令への波及  

1 日本の司法権の拡大と旧韓国の司法の委縮  

  1-1 韓国裁判所の設置  
  1-2 韓国裁判所における判断の基準  

2 日本人司法官の手による旧韓国の法治国家化の頓挫  

3 「帝国憲法の適用」と朝鮮の慣習  

4 朝鮮民事令と旧慣温存政策  

5 小括  


第6章 植民地朝鮮の法源となる慣習の認定過程  

1 梅謙次郎と旧韓国の司法整備  

2 慣習調査事業と「慣習調査報告書」の作成方針  

3 各地の慣習調査報告と朝鮮総督府の「慣習調査報告書」  

  3-1 明治民法と慣習調査問題  
  3-2 各地の慣習調査と「慣習調査報告書」の相違  

4 小括  


第7章 民籍法における「朝鮮の慣習」という名の
    日本型父系血統主義の導入
 

1 民籍法以前の戸籍制度にみる戸籍の機能  

2 民籍法の制定  

  2-1 民籍法制定の警察行政上の目的  
  2-2 登録を円滑にするための慣習の採用  
  2-3 民籍の編製方針  

3 民籍法改正による「家」と日本型父系血統主義の導入  
  
  3-1 慣習の採用  
  3-2 「朝鮮の慣習」という名の日本型父系血統主義の導入  

4 小結  


第8章 裁判における日本型父系血統の「朝鮮の慣習」化  

1 史料と先行研究  

2 日本と朝鮮の血統概念の枠組みの相違  

3 朝鮮時代後期の父子の推定の事例  

  3-1 早産で生まれた子の父の推定の経緯  
  3-2 礼を重んじる朝廷の判断  

4 朝鮮民事令施行前の日本人裁判官の判断
  ——庶子相続権ヲ有スルコトハ韓国ニ於ケル法則ナリ  

  4-1 裁判の指針と裁判官の資質  
  4-2 相続権争訟に関する件
     (明治四三年民上第一四号、明治四三年二月一九日判決)  
  4-3 朝鮮民事令施行前の養子と庶子の相続権  

5 朝鮮民事令施行後の日本人裁判官の「慣習に依る」判断  

  5-1 閔泳翊の世代承継者は誰か
      ——朝鮮民事令施行後の日本人裁判官の判断  
  5-2 閔泳翊による閔俊植の養子確認請求訴訟に対する
     高等法院の判断  

6 判断の変更——
  ー庶子がいる場合の養子縁組は名門勢家各自の一個の専断行為 

  6-1 家督相続権確認並民籍抹消請求の件
     (大正六年民上第二一五号、大正六年一一月二七日判決)  
  6-2 判断基準の変更と日本の父子をめぐる観念  

7 小括  


第9章 姓は男系の血統の標識・氏は家の称号  

1 朝鮮民事令における旧慣温存政策の目的  

2 朝鮮民事令の制定と改正  

  2-1 朝鮮民事令の制定  
  2-2 朝鮮民事令第一一条の一九二一年改正  
  2-3 朝鮮民事令第一一条の一九二二年改正  
  2-4 朝鮮戸籍令の制定と共通法第三条の施行  

3 朝鮮民事令第一一条の一九三九年改正  

  3-1 一九三九年改正までの経緯  
  3-2 旧慣温存政策の合理化と創氏制度  

4 姓氏の概念規定と政策の亀裂
  ——「姓は男系の血統の標識・氏は家の称号」  

  4-1 姓氏の概念規定「姓は男系の血統の標識・氏は家の称号」  
  4-2 一九三九年の改正と政策の亀裂  

5 皇民化政策の亀裂のその先  

6 小括  


第10章 韓国の民法制定過程に見る父系血統主義の誕生  

1 民法制定のプロセス  

  1-1 アメリカが想定していた韓国の家族法像
      ——アメリカ軍政期の司法整備  
  1-2 民法典の制定の経緯  
  1-3 比較のための朝鮮民主主義人民共和国の解放後の法整備  

2 血統の自画像と家族法  

  2-1 張暻根の場合  
  2-2 金炳魯と鄭光鉉の場合  

3 国会審議に見る男系血統主義と戸籍  

  3-1 女性の戸主相続と血統と戸籍  
  3-2 同姓同本禁婚における血統と植民地朝鮮に定着した
      日本の生殖観  
  3-3 父系血統主義を概念規定する戸籍  
  3-4 父系血統主義における子——親生子女・出生子・養子  

4 父系血統主義の「解体」の始まり  

5 小括  


終 章 植民地朝鮮における「父系血統主義」と司法政策の臨界  

1 朝鮮半島における父系血統の系譜  

  1-1 日本における「血統」の誕生  
  1-2 朝鮮時代の父子をめぐる観念  
  1-3 旧慣温存政策と「朝鮮の慣習」としての日本型父系血統  
  1-4 「朝鮮の慣習」と登録の植民地近代性  
  1-5 植民地朝鮮における日本の司法政策の臨界  

2 植民地朝鮮という二重拘束(ダブル・バインド)の空間の効果  

3 受身の主体とヘゲモニーへの同意——再生産される植民地近代性  

  3-1 第一世代の韓国法研究者の隔靴搔痒  
  3-2 第二世代と第三世代の韓国法研究者の隔靴搔痒  
  3-3 植民地空間におけるエリート法学教育と韓国の学知の連続性  
  3-4 日本の戸籍の観念と戸籍の可塑的効果  

4 日本は血統を重視しない文化なのか
  ——日韓の比較家族史・家族社会学・日韓比較文化論・ジェンダー研究  

  4-1 日本は本当に血統を重視しない文化なのか  

5 本書の限界と展望
  ——日本型血統概念から波及した研究の再考に向けて  



韓国の礼との出会い——あとがきにかえて