弊社刊行書籍の著作権者の皆様へ

2009年4月22日
株式会社 日本評論社
代表取締役社長 黒田敏正

 先般より、Googleとアメリカ作家組合およびアメリカ出版社協会会員社との和解につきまして、新聞等でさまざまに報じられております。日本の著者および出版社にも影響が及びますこの和解に、皆様は多大の関心と疑問をおもちのことと存じますので、状況をご説明するとともに、当社としての考え方をお伝えする必要があると考え、現在当社より著作物を書籍として刊行させていただいております著作権者ならびに著作権管理者の皆様に、お知らせ申し上げます。

 和解の内容について

 Googleとは、インターネット上の検索サービスを提供している会社であり、アメリカ国内に本社があります。Googleは5年前に、アメリカ国内の主要な大学等の図書館と提携し、現在までに700万部以上の書籍をデジタル化してきています。このデジタル化された書籍はデータベース化され、内容を全文検索できるサービスがGoogleから提供されています。しかしこのような作業は、本来権利者の許諾を得て行なうべき作業であるとして、アメリカの作家組合と主要出版社は、2004年秋にGoogleに対して著作権侵害の訴訟を提起しました。
 ところが昨年10月に、Googleと作家組合・主要出版社の両当事者間でこの訴訟における和解が成立し、本年6月には裁判所によってその和解が正式に認められる見通しになりました。この和解案の内容の骨子は、権利者側は2009年1月5日以前に刊行された書籍についてGoogleがデジタル化を継続して、今後非独占的に「個人や団体への本文オンライン販売」「ページ表示や数行の抜粋表示」などをすることを認める代わりに、(1)Google側はこれまで利用した書籍に対して請求に応じて1冊あたり60ドルの対価を支払い、(2)今後はGoogleが運営する「書籍データを利用したサービス」全収益の63%を権利者に分配していくというものです。また(3)個別の書籍については、権利者はGoogleによる利用からデータを削除させることや本文表示利用をやめさせることができる、としています。

 なぜ日本の著者や出版社に影響が及ぶのか

 Googleと提携した図書館の蔵書には、日本はもちろん世界中で出版された書籍も多数含まれています。これらの書籍はそれぞれもちろんその国の著作権法で保護されていますが、現在、日本、アメリカを含むほとんどの国で、著作権に関する国際条約であるベルヌ条約が批准されていることによって、アメリカにおいても同様に著作権が尊重され保護されます。
 したがって今回の和解は、アメリカ国内で行なわれたものであり、アメリカで著作権侵害として争われた訴訟に関するものですが、日本の作家と出版社も、アメリカでの出版物の権利者と同じようにアメリカの著作権法により保護されている共通の利害関係者となります。
 さらに、この訴訟は集団訴訟として扱われたため、訴訟に参加している当事者と利害の共通する関係者には、この訴訟に参加していなくても効力が及ぶことになります。この集団訴訟という制度は、アメリカ国内の訴訟制度にすぎませんが、著作権をめぐる権利紛争であって国際条約がはたらいたことにより、日本の著者や出版社にも影響が及ぶことになりました。

 権利者がとることのできる選択肢

 この和解案に対し、権利者がとることのできる選択肢は大きく分けて次のように二つあります。
(1)和解に参加する。
(2)和解に参加しない。
 2009年(本年)5月5日までに何もしなければ、(1)「和解に参加」したことになります。逆に(2)「和解に参加しない」場合には、5月5日までにGoogleに対して申し入れを行なわなければなりません。
 なお、1冊あたり60ドルの「解決金」の受取や個別の書籍のデータベースからの削除は、(1)の和解内手続で行なうことになり、それぞれ2010年1月5日、2011年4月5日が、請求期限とされています。個別の書籍を本文表示利用から外させる要求およびその復活には期限はありません。また和解内容に異議がある場合は、本年5月5日までにアメリカの管轄裁判所に対し、異議申し立てをすることができますが、異議が却下された場合は和解に拘束されることになります。
 (2)「和解に参加しない」場合は、書籍のデータベース化や本文使用についてGoogleを著作権侵害で訴えることができますが、各自の費用負担で行なわなければなりません。

 当社の考え方

 この問題について、当社は次のように考えています。
 Googleがすでにデジタル化作業を行なった書籍には、当社が刊行した書籍も1400点前後含まれているようです。現在その詳細を調査中ですが、当社としてはこの和解に参加するつもりでおります。和解を拒否して蚊帳の外に出るよりも、全世界を巻き込んだネット社会化の中で、著者と出版社の立場、権利を守りつつ、ネット上の書籍の展開についても前向きに取り組んでいくためにも、和解に参加することが必要だと考えたためです。
 なお、デジタル化された個別の書籍のデータを2011年4月5日までに申し出て削除させる、あるいは時期を問わず個別の書籍の本文表示利用を止めるよう申し出るという手段を取ることについては、できるかぎりそのようにしたいと考えています。
 もっとも、この和解はGoogleによるアメリカ国内での利用に限定されており、インターネットによる利用も、アメリカ国内からの利用に限定されます。もし日本国内から自由に利用できるというのであれば日本における書籍出版、電子出版に大きな影響が及ぶことになりますが、現時点での影響は小さいものであると考えられます。
 しかし、インターネットというものは本来国境を越えて利用できるものであること、Googleなどのネットビジネスは、すべての情報をインターネットに取り込むことを指向するものであることなどを考えると、近い将来、出版界に大きな影響を及ぼすような提案が、日本においても持ち込まれてくる可能性は否定できません。

 今後のご連絡等について

 先に申し上げましたように、当社としては本年5月5日までにGoogleに対して「和解に参加しない」旨の申し出を行なうことなく、自動的に「和解に参加」しようと考えております。著作権者の皆様も同じように「和解に参加」される場合は問題ありませんが、もし「和解に参加しない」旨をGoogleに申し出ようとお考えの著作権者の方がいらっしゃいましたら、担当編集者までお申し出くださいますよう、お願い申し上げます。


[参考資料]
1.Googleブック検索和解のHP:http://www.googlebooksettlement.com/
2.Googleブック検索和解に関する通知:
http://www.googlebooksettlement.com/intl/ja/notice.html
3.弊社刊行書籍で本和解案の対象と考えられる書籍一覧(2009年4月13日時点。調査継続中)http://www.nippyo.co.jp/data/taisyou-syoseki-ichiran.xls